chimera−融合と分離−


―Prologue―

馴染めなく、常に輪の外。

解かり合えなく、いつも狭い部屋の中。

こんな時、社交的な人が器用に思える。

現実を見ず空想の中だけで生きるのは、次第に心を弱化させる。

あらゆる世界に簡単に溶け込める様な・・融合の力が欲しい。

――些細な欲と共に、現界と裏世界が融合と分離を繰り返す。

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【用語集】(臨時更新予定

「融合」=様々な物質を細胞に溶け込ませる能力。
溶け込ませた物質に細胞が反応して、一定時間属性や姿が変化する。
変化する属性や姿は、物質によって違う。

「分離」=融合した物質から離れる能力。

「魔獣」=裏世界の生物。種類や力は千差万別。
現代では稀少種であり、存在を認めない人も多い。
元々人間が人工的に開発したものも中には存在するという説もある。

「キメラ」=細胞に無類の生物や物質等の、遺伝子が含まれてる事。
そういう系統の魔獣は、周囲の環境や物質に影響して
一時的に姿形、属性が変化できる。
大半の魔獣は殆ど、少なからずともその「キメラの能力」が備わってる。

「魔獣界」=魔獣のみが気儘に生棲してる異空間。
この空間は初めから存在してたのではなく、
一匹の魔獣が、人間界から避難する為に創り出した空間と言われてる。
しかし中には、過酷な人間界に残って秘かに生息してる魔獣も多い。

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アンズ(冬林 杏)/16歳/AB型/女
自分の世界に篭りがちな少女。
普通の人と考えが噛み合わない場合が多い。社会不適応者。
常にボーっとしてて、ヨレヨレの服装。ついどうでも良い事に執着しやすい。
しかし2面性があり、本当は知恵がまわって結構優れてる。
6年前サーカス団に所属してたらしい。

デル/11歳/♂/影
影属性の魔獣。主に現実世界と魔獣界を行き来して暮らしてるらしい。
見かけは人間と比べて特に変らないが、包帯の下に黒い翼を隠してる。
基本的にマイペース。銀髪で毛先は薄紫色。紫眼。
勿論「キメラ」の能力も備わってるので、
融合した物質に応じて姿や属性を変えられる。

日比野 薫(ヒビノ カオル) 女 A 31歳
大手企業の女社長。池亀銀行には、支店長と知り合いなのでよく来る。
アンズのことは両親の関係で幼少時代から知ってる。
裏側では様々な悪徳手段を使って、自社を経営してる模様。
最近米国から傭兵を雇い始めたとか・・・

毬田 百夜 (マリダ モモヤ)
マリモが人間界で、銀行員として働いてる時に
使ってる仮名。


オリキャラ投稿用テンプレート
名前:
年齢:
性別:
種族:(人間か魔獣が基本的です
血液型:(人間のみ要記入。
説明:(生い立ち、性格、容姿等・・


投稿オリキャラ ( ピカ姫様の側近マリモさん作) オリキャラなのさ・・・ 【名前】マリモ 【年齢】22 【種族】人間と魔獣のハーフ 【性別】男 【血液型】一応O型 【説明】出生不明・性格は育ててくれた人物の影響でおとなしくて優しいうえに結構力 持ち。しかし、1度キレると魔獣の力を発揮 普段は人間の姿でいるがキレると魔獣の姿になる 【属性】風 【戦闘スタイル】人間体の時は風の能力を使って敵の技を相殺しながら仲間のサポート をし、魔獣の時は荒々しい戦い方をする。 また、怒りが頂点に達すると見境がなくなってしまう (人間の時の技) 風旋(ふうせん):風の力で敵の攻撃を受け流す。またそのまま相手に跳ね返す事も可能 (魔獣の時の技) 旋風魔牙突(せんぷうまがとつ):2つの大きな竜巻を起こし相手を動けなくし、体 当たりをしながら相手の急所に一撃を食らわす 大空旋風塵(たいくうせんぷうじん):上空にジャンプして、敵の上から竜巻を起こし、 動けなくなった所を両腕の爪で相手を切り裂く んでこんなものも考えてみました 風魔神玉(ふうましんぎょく):マリモが赤ちゃんの時から身につけているネックレスで 中心に緑色の宝石がはめられている。 実は、これがあるからマリモは人間の姿が維持でき、もしキレて魔獣になってもあ る程度感情が収まると人間の姿に戻ることが出来る もし、このネックレスが破壊されると大変な事になってしまう こんなのどうですか? (ニャニャ・改さん作) 名前:エルノア 年齢:17歳 性別:♀ 種族:魔獣 属性:岩 説明  自然の中で生きていたが、森林伐採が進み住む場所がなくなっている。  現在は夜の町をさまよい歩いている。過去が過去のため人間は嫌いである。  そのうち慣れるかも・・・・・。見た感じは人の体に猫耳と尻尾のついた  いわば猫人である。バンダナなどで隠してあるため普段はわからない。  見た目は平均的な女子の体系だがかなりの力がある。普通にコンクリを  破壊可能・・・。地面から岩を自由に出し、それを自在に操ることもできる。  人であることを明かさなければ基本的に温厚な性格である。 【岩山牙】 岩属性      岩属性の中でも低級の技。地面から先端のとがった岩を生やす。      普通は一本だが属性が岩のものはもっと多く出すことも可能。 双岩華宴星】 岩属性  空中に岩を出し相手にぶつける。岩の大きさが         大きいほど出せる岩の数が減っていき、小石程度の大きさ         ならば数百もの数を出すことも可能。中級くらいの技。 【岩爆芍弾】  岩属性  爆弾石を相手に打ち込む。爆発程度は運しだい         で、小さくても爆発が強力なときがある。基本的に大きい         ほど爆発規模も大きい。中級の技。 (遥さん作) 名前:ルセカ 年齢:15 性別:男 種族:魔獣 属性:植物系(蔓とか葉とかです;) 説明:小さめの狼(灰色)。基本的には人間に友好的である。    それは、仲間の狼に「チビ!」と虐められていたからなのかもしれないが。    10歳の時に森を逃げ出し、今は人間の村に棲み付いている。    人間の姿(狼の時でも)は灰(銀より暗い)の髪(毛)に青の瞳。    瞬発力と走るスピードは小柄なためか速い。    力は魔獣(狼)の中でも弱めに入ると推測される。        所謂、心優しい魔獣です。 こんなキャラ大丈夫なのだろうか・・・; (虎影さん作) 名前:フェルド・サイ・レイザ 通称:フェルド 出身:不明 戦闘スタイル:柔術、剣術、銃術 職業:魔獣ハンター兼傭兵 年齢:24 性格:慎重、冷静、分析的 性別:男 種族:人間/一部魔獣 身長:180cm 服装:軽装備。左肩に銃の逆火除けを装備している。 属性:魔 武器:リボルバー ナイフ TNT爆弾 鉄篭手 槍 血液型:AB型 説明:魔獣狩りをしていた。武器は何でも使いこなす。ある魔獣を倒した時に、右 腕を失い代わりの腕に小型の魔獣の腕を使っている。無口で非常に分析的。 また、魔獣の右腕は偶然に拒絶反応を起こさなかったためにまだ使えている。 魔獣の魔属性を持っている。まだ、魔獣の意識が残っており、フェルドが死にそうにな ると魔獣が暴走して魔獣に意識を持っていかれる。あまり、長時間魔獣に意識を取られ ると、死亡する可能性が在る。
―あらすじ― 昔サーカス団に所属してたアンズ。 ところがある事件が切っ掛けで、引退して6年間家に引き篭もる。 そんな日常が続くある日、普段のように自宅の屋根の上で寛いでると 異様な声が頭上から聞こえた。 ゆっくり目を上に向けると、一瞬黒い鳥の様な影が見えた。 驚いてる間にもその影は電線に纏わりつき、電光の塊へと姿を変えた。 そしてアンズの愛読書に稲妻を落とし、焼き払う。 驚くものの興味が湧いたアンズは、正体をつきとめるべく電光の塊を追いかける。 しかし電光の塊は、カラス達の影を見つけると その影に身を溶け込ませ、彼女の前から姿を消した。 夢中になりすぎて、電線から降りれなくなったアンズは 意を決して電線から、近くの建物へと飛び移るのを試みた。 しかし失敗して落下してしまう・・死を覚悟したその瞬間、 一匹の魔獣が現れ、アンズを持ち上げてた。魔獣の名前はデル。 鳥の影と電光の塊の正体は、全てこの魔獣だった。
夕刻4時過ぎ―― 夏場は大抵この時間帯を中心に日が落ちていく。 冬でも僅かに明るさを残した暗さ。 昼間の様にギラギラ眩しくなく、 自分の部屋みたいに真っ暗でも無い。 一日の中で一番好きな時間。 「やっぱ快適ー」 少し塗装が剥れかかった屋根の上。 アンズは膝の上でコンビニ袋を開け、夕食代わりにチョコを一粒咥える。 「夕飯は此処に限る・・」 頬を通り越す風を涼しげに浴び、 薄桃色に広がる空の下で、時折思うことがある。 夕日ってさ・・ 太陽本体の赤と、その光線の黄色、空本来の澄んだ青色。 そして夜の暗さが重なってこんなに柔らかい色なのかなー・・ 「(光の三原色を上手く調合させてるのねー・・)」 いつも屋根の上に来ると、 普通の人が考えそうに無いことを思い浮かべるのが日常。 一息つくとアンズは屋根で膝を伸ばし、ある本を手の平に広げる。 世界神話の総集編。 女らしさに欠けてるアンズには、微妙に似合わない一冊。 元々現実逃避な彼女は、これを読むと人一倍 滑空世界に取り込まれやすい。 この本の内容はいつも自分の脳内で思い描いてる世界に、限りなく近い。 何度も読んだはずなのに毎日読み返してる。 読み返すことによって、頭の中で徐々に自分なりの空想世界を創り上げてた。 バサァ... 「・・・・まーだこんなインチキ本出回ってんダネ・・」 しかし背後から、異様な羽音と共に 和やかな雰囲気をかき消す声がした。 「・・・我らの迷信が広まって困ル」 不気味な笑みと嫌みを込めた声。 大抵の人ならここでブチ切れだ。 否、それ以前に大きな鳥が飛ぶような羽音に不審感を抱くはず。 しかしアンズは、声の主に対して振り向かなかった。 元々趣味を貶される事にはいつも慣れており、 それにこの本を読んでる間は、架空世界に旅立った状態・・ ・・・誰が話しかけてこようと反応が鈍くなる。 「これは神話世界の物語。現実とは全然繋がりナシ」 だから迷信でも関係ないでしょ・・? 一応軽く返答はしてみる。 アンズは本を一通り読み終えると、遠くで夕日が沈んでいく様子をぼーっと見届け てたが 心の淵では秘かに、声の主が気になっていた。 「・・・そう、、今の君の話を聞くと、 神話を現実的には信じてない様ダネ。。」 声の主は背後から、アンズの頭上を飛ぶ。 ・・・アンズは顔を上げず、目だけで上を見てみる。 ・・・・奴の姿は黒い鳥の形をした影だった。 チリン... その影は頭上を通り越すと同時に、本の上に銀色に光る物を落として行った・・ 「・・え、コイン?」 アンズが呟き本の上を確かめてる隙に、影は近くの電線へと飛び込む・・・やがて 黒い影から、 疚しく光る電気へとその姿を変えて、黄色い火花を散らし始めた。 ビリリ....ビリ... 「架空が現実に存在してた場合・・どうすル?」 電光の姿でアンズに問うが、彼女の瞳は固まってる。 「『放電象』!!」 ...ズバアアアアァ!! アンズの範囲の空一面が一瞬、快晴の如く強く光った。 耳の奥が痛くなるような乾いた音が轟く。 咄嗟にアンズは反射的に瞳をギュッとつぶり、耳を塞いだ。 「・・・な、ない」 次に瞳を開けた時・・呆然と手の平を見る。 さっきまで確かに手元にあった、世界神話の本・・まるで最初から無かったかの様 に消えてた。 変わりに、黒焦げになった紙の破片が手の表面に付いている。 稲妻がコインの金属に反応し、本の上に落雷して焼き尽くした模様。 嘘・・嘘でしょ・・・?! やっと完全に現実に返る彼女。 何も起こらない平凡すぎる日常で生活してきたためか久々の刺激に動揺してる。 久々に衝撃というものに直面した・・6年前のあの日以来・・・ ・・・いや、6年前のあの時の方が衝撃的で怖かった。 確かあれが切っ掛けで・・現実を見ることが嫌いになったんだっけ・・ それ以来ずっと 頭の中で現実世界とは『分離』し、滑空世界と『融合』してた。 ――でも今、目の前で起きてる事。 ・・まさに「現実世界の中」でありえない事態が起きてる予感・・ 「滑空は滑空の域のみでしか起きない。 これにも何か物理的な法則があるはず」 心底では徐々にこの状況を認めかけてるが、口ではそう言い張るアンズ。 「これは悪質な手品。 ・・どんな原理かまでは知らないけど、遠くで誰かが糸で操ってるとか!」 手に付着してた煤埃を服で掃い、すくりと立つ。 「私は元サーカス団所属。こんなトリック見え見え」 ・・・とは言っても6年前に引退したけど。 それに半分は自信が無い・・ 恐らく6年前のあの日以来、サーカスの話題を話すなんて この正体不明の生物・・・いや、手品師が初めての御相手かも知れない・・ どちらにしろ、この事態のおかげで自分のボーっとしてた意思が はっきり戻ったのは何年ぶりか・・ 「・・・・・面白い推理ダね」 声の主は微かに笑みを混めて呟く。 電線に絡みついてた猛烈な電光が一定の場所に集まり、一つの塊と化した・・ 「さっき頭上に見えた影は、鳥を模った紙飛行機。 今、電線で火花を散らしてるその電光の塊も・・どうせ爆竹とかでしょ」 更に詳しく推理する。 普段は常に朦朧としてる様なアンズ・・しかし本当は結構聡明な少女なのである。 この今、現実世界で奇妙なものと遭遇した触発で、 そういう潜在能力が掘り起こされたのかも知れない・・ 「さて、そろそろ正体を現せば?手品師さん・・」 屋根の上でしきりに周囲を見渡す。 「面白い・・とても名論・・・でも残念、全てハズレ♪ ボクはマジシャンでも・・超能力者でもナイ」 しかしやはり声は・・電線に集まってる電光の塊からしか聞こえない。 「じゃーなに・・?」 アンズはもう一度その電光の塊に視線を向けると同時、 ・・なんと屋根からひとっ跳びで、電線に乗り移った。 電線はグラつくように揺れるが、彼女はバランスを崩さない。 元サーカス団員だったのでこのくらい余裕である。 電線を流れてる電力は全て、あの「電光の塊」が寄せ集めてる・・ 更にアンズの靴底はゴム製なので、感電する心配はないはず・・ 「ナニかな・・・ボクだってワカンナイ。 人間が作った迷信や仮説のせいで・・色んな名前で呼ばれてるモン」 電光の塊は答える。 アンズは電線の上で、電光の塊と向かい合いながらふと思った。 手品師にしてはまだこの声は幼い・・ 仮に手品師だったとしてもこのトリックは高度すぎる・・ ――やはりどういう角度から推理しても 架空が現実世界で起きてると考える以外・・不自然である。 そんな事を考えてる隙に電光の塊は、電線を伝って逃げ出した。 「あ、、」 アンズは追う・・電線の上を走って・・ もう深く考える事はやめた。キリが無い・・ 奴は鳥の形をした影かと思えば・・電線に飛び込んで電光の塊に姿を変えられる し・・・ 手品師だと断定したら「ハズレ」って言われたけど・・ ・・奴は正体不明な生物だという事には間違いない・・ ・・しかも愛読書を燃やされた。 それに謎を残したまま逃がさせる訳にはいかない・・ とにかく全貌を暴いてやろう・・ 電線の上を駆けるのはアンズにとって、 サーカス時代によく猛特訓した「綱渡り」をしてる気分。 確か綱渡りは一本のロープで特訓するのが基本だった・・ ・・でも電柱は何本もの線で支えられてるので、その分足場も多い。 だから自然と走るのが怖くない。 (ゲ!ナニあの猿女・・!) 電光の塊は、後ろから追って来るアンズの気配を感じ取ると 逃げるスピードを早めた。 しかし途端に全身が点滅し始め、スピードが少しずつ弱くなっていく・・ (う〜ん・・やっぱ慣れてない属性に・・長時間融合してるのはキツイ。。) ・・影になるものを探さないと・・ 電光の塊は、電線を伝うように迸りながらそんなことを考えてた。 ・・・・と、その直後アンズは何気なく 自分の足元を見た。 「あれ・・」 真下は大通りの道・・幾数もの乗用車が猛スピードで行き通い、 灰色の砂埃を上げている。 知らない間にこんな場所まで来てしまうとは・・ 降りれる余地は無さそうだ・・ (ウワ・・あのサル女降りれなくなったノ・・?) 正体不明の生物も困り果てている。 居なくなってくれないと自分も立ち去れないから・・ ・・・・否、よく考えれば降りれるはず。 下が駄目なら、、そうだ上・・ 追跡はもう諦め、降りる策を考えるアンズ。 周囲には、高さの違う数々の高層ビルや家、店などが建ってる。 どれかに上手く飛び移れば・・ 一番飛び移るのに、高さや距離が最適な場所は・・・・? 何度か見渡すと、やや小さく古ぼけた建物が視界に留まった。 高さは最適であるが、電線からは微妙な距離・・ 「・・・・・」 一旦、長く呼吸し、息を呑んだ。 失敗すれば、瞬く間に真下の道路は この身体に蓄えられてる赤い鮮血の海で、一面に広がるだろう。 ――ドキドキと心臓が高鳴る音がする・・ 強い緊迫感の圧力で、心が押し潰されそう。 死ぬのは嫌・・ どうして外ってこんなに広いのだろう・・そう思わずにはいられないアンズ。 6年前に現実逃避になってから毎日部屋に引篭って、 何の夢も持たずに過ごしてたけど・・ それでもせめて、6年前亡くなった家族の分まで生きていたい・・ だけどこの状態でいても、いつまで経っても弱い自分のままだ。 ・・・・・だったら、思い切って賭けてみよう。 この機会をチャンスとして・・ サ..... ――アンズの両足が電線から離れた。 夜月に彼女のシルエットがはっきりと浮かんだ。 どうやら再び現実と向かい合わなければ 人生の先を進めない時が・・来たようね―― 今日その切っ掛けを 与えてくれたのは、、さっきの正体不明の生物のお陰かも知れない。 ――その正体不明な生物とはいうと・・未だカラス達の影に溶け込みながら 大きく電線から跳踊したアンズの姿をただ見届けてた。 そして予測してた。 もしあのサル女(アンズ)が落ちて死んだとする・・ だとすれば大勢の野次馬が駆けつけてきて、 更にボクは立ち去る余地が無くなるかも知れない・・・否、けれど・・ ・・・アンズが電線から建物に飛び移ろうとする 一秒一秒の時間がとても長く感じた矢先。 グラリ..... 「・・・!!」 ・・・駄目だった。 ギリギリで建物の角に、足のつま先が触れたものの、 やはり何年も身体を動かしてなかったアンズには無理があり、 惜しくも届かなかった。 やっぱりダメ・・ ――後悔に満ちてももう遅い。 ここで飛び移るという試練さえ果たせなければ、 私はサーカス団として・・寧ろ人間として失格・・ あとは神様が死の裁きを下すのみ・・ 後方に崩れて落ちそうになると同時、 アンズの脳裏に、6年前の記憶がハッキリと過ぎった。 ――そうだ・・私にはさっきの正体不明な生物なんかより・・ もっと大切な真実を知る必要があったんだった・・ それはアイツ・・ このまま6年前に私の家族の命を断った・・アイツの・・正体を・・ 突き止められずに終わるの・・?!?! 後悔しながら死ぬ・・人間として最も哀れな死に方―― ・・・そんな未練のみを残して落下していく・・と、その時だった、、 ・・・・電線の上に群がってたカラス達が、いきなり慌てるように飛び始めた。 そのカラス達が止まってた中心に、一瞬小さい影が見えて 仰ぐように夜空を舞った・・ バサァ... ――さっき屋根の上で聞いたのと同じ羽音が、 今度は落下するアンズのすぐ背中から聞こえた。 「ヨッと。。」 あの正体不明の生物と同じ声。 そして突然アンズの背中から翼が生えた・・・・否、小さく幼い子供が カラスによく似た漆黒の翼をはためかせ、アンズの背中のシャツ部分を掴んでた。 「ヤーレヤレ・・こーいうのをサルも樹から落ちるって 人間の間ではゆーんだよネ?・・確か・・ね?」 パタパタ飛んで後ろからアンズの顔色を伺ってる。 「・・・・・あんたに知らなくて良し」 ・・こっちはそれ以外出る言葉が無い。 自分より年下の子供に助けられるなんて・・とは言っても変な羽が生えてるけど。 「さっき稲妻で私の本を燃やした 悪戯の犯人もあなた・・?」 街に広がる夜景を見下ろしつつ、アンズは問う。 ・・それ以外に該当する犯人はもう考えられないけど。 「悪戯じゃナイね、、ボクは任務を実行しにきたダケ」 黒い翼の生えた子供は、アンズを持ち上げた状態のまま答える。 「・・任務?」 こんな子供に任務なんて・・ とりあえずアンズは半信半疑で、耳を傾けた。 「そう。。さっき君が屋根の上で読んでた世界神話のなんとかってやつ・・ あの本は毒本に過ぎないからネ。 だから稲妻を落として焼却しマシタ♪」 最初に頭上を飛んだ鳥の影・・ 本に稲妻を落とした電光の塊の正体、全部この子供が化けてたらしい・・ 「毒本って言わないでくれる・・? あれは私の唯一の愛読書だったのに・・もう悪魔!」 珍しくアンズは怒ってた。 彼女にとって、あの本はとても大切な一冊・・ それから飛び移りに失敗した苛立ちもあり・・ 「アクマ。。やっぱそう言われてもショウガナイ・・」 何を思ったのか、子供は黒い羽ばたかせたまま深く溜息をつく。 アンズはそんな反応など構わず、更に言葉を浴びせる。 「そう悪魔!ギリシャ神話で語られてるやつね・・」 黒い翼が生えてて・・毒々しくて妖艶な色の皮膚と体毛の―― 「ヒドイな・・・全く近頃の人間・・特に女は礼儀が成ってナイ。 魔獣界からお見えになったお客にいきなりアクマって・・」 やはり溜息を吐きつつ子供は言う。 そんな事を言うこいつも、人の事は言えなさそうであるが・・ 「大体作り話ばかり読んでるから人間は 本当のボク達を知らナイんだよ。 ボクら魔獣に関する間違った言い伝えが広まって、厄介ダヨ!」 まるで自分のことを悪魔呼ばわりしてる人間を気に入らなさそうに呟く。 ――神話の本に稲妻を落として焼き尽くしたのも、 これ以上人間界で「魔獣」を「悪魔」だという迷信を広めたくない為だった模様。 「・・・どーでもいいけどさ、、これ貰っていい?」 ・・あまり話には深く関心が無さそうにアンズは 右手を高く上に挙げ・・・持ってるコインを子供に見せた。 そしてニコリを笑みを浮かべる。 「ハァ、、もうイイ・・でももう「アクマ」って単語は使わないでくれルかな? ボクは『デル』っていうちゃんとした名がアル。 ・・じゃないと終いには落とすヨ?」 と、アンズを持ち上げてる両手を緩めようとする。当然、真下は道路だ・・ 「ハイハイりょーかい・・ じゃさ私のことも次からは、アンズってゆってねー・・」 まるでデルが「サル女」だと思ってたのを、見破ってたかのように囁くアンズ。 久々に神経や体力を使ったからか、いつもの暢気そうな表情に戻ってた。 「そろそろ重いから降ロスヨ・・」 デルも疲れたらしく、緩やかに黒い翼をはためかせ、 建物の屋上にアンズを降ろした。 本当は道路に降ろしてくれた方がすぐ家に帰宅できるので、 アンズにとってありがたいのだが、 夜とはいえ、通勤・通学帰りで人通りの激しい道に姿を現すのは 魔獣であるデルにとって躊躇える。 「・・魔獣ねー。。」 降ろしてもらうとアンズは振り返り、珍しそうにデルをよく見た。 持ち上げられて飛んでる時は、よく後ろを見れなかった為・・ デルは銀色で毛先に紫がかかった頭髪、カラスによく似た大きめの翼・・ やはりそんな姿をしてた・・それ以外外見は、人と特に変らない・・ 「どうして電気になったり影になったりできるの・・?」 アンズが素朴に質問すると、 「ん・・?んとネ・・まずこれを最初に説明するケド、、 ボクらの先祖は、元々はただの動物だったんダヨ。」 コンクリートに足が付くとデルは、広げてた翼を静かに閉じる。 「本当は動物・・?」 「ソウソウ。。でも遺伝と進化の過程でネ、 幾数もの遺伝子や属性を、一つの細胞に持つようになったノ・・ そして『魔獣』ってゆう新生物が誕生したノ。」 特にアンズに対して何の警戒心も持ってないらしく、平然と語り続ける。 「だから環境や、触れた物質に細胞が反応して『融合』し、 姿形を一時的に変化できるワケ」 やや真面目気味に説明するデル。 「ボクの場合・・遺伝子はカラス、人間・・ そして属性は影に一番偏ってるかな・・」 だから影に融合して溶け込むことができ、 カラスの翼を持った人間の姿をしてる様だ。 「つまりボクは基本的に、影属性の魔獣ってコト。 暗い場所や夜の時間帯が一番好きダヨ。」 魔獣は自分が一番偏ってる属性と同じ環境が、とても快適に過ごせるらしい。 「ふぅん。。」 「でも無理に自分の属性とは、不適合な属性に融合すると・・ さっきボクが電気と融合した時みたいに、動きが鈍くなったりして副作用を起ス ノ。 ・・・最悪の場合は死ヌこともあるネ♪」 ひやっとする話題なのに、悠然と言う。 「・・コノ様に、色んな物に融合したり分離したりする力を 『キメラ』の能力って魔獣界では言われテルヨ」 ここでやっと話し終えるデル。 「あんたね、、そんなに死ぬ気になってまで 私の本を燃やしたかったの・・?まあいいけど。。」 概念的には魔獣のことを解かったアンズ。 しかしまだ本に稲妻を落とされたことが、少し嫌みたいだ。 「ショウガナイよ。魔獣界の任務は常に命懸けダヨ。 迷信の元となる物を全て、この世から消していくのがボクの任務ナノ」 デルは上着を脱ぐと、胴に包帯を巻いて黒い翼を隠してる。 そして再び上着を着ると、幼けな眼差しでアンズを見上げた。 最初に会った時より、少し態度が違う。 「・・あっそ」 アンズはゆっくりと屋上の入り口方面へ歩いた。 そこから一階まで降りて、家に帰るらしい。 後ろからデルが駆け足で付いて来るが、別に気に留めなかった。 ――屋上の入り口の上には看板が建っており、ライトに照らされてる。 『池亀銀行』と名称が印されてる。 どうやらこの建物は銀行らしい。 コツコツコツ...... 薄暗い階段を降りていく中、デルが訊く。 「ネーネー・・・アンズ・・銀行って何?」 人間のことに妙に詳しい魔獣だが、銀行はよく知らなかったらしい。 「・・・・デル、金融機関(きんゆうきかん)って知ってる?」 「きんゆう・・・?金属類をナニかと融合させるコト・・・?」 どうしようもなく頓珍漢なデル。 アンズは呆れつつ・・ 「もうどうでもいいけど、影の中に隠れて」 そう指図されるとデルは首を傾げ、一旦足を止めてまた歩く。 「・・ナンデー? 翼は隠したんだし・・・後は人間の子供そっくりだからイイじゃん」 「ダメ、今時髪を銀色に染めて 紫のコンタクトレンズつけてる子供なんて不良っぽいから」 「アンズ・・・これ地毛ナンダケド」 「いいから隠れてて」 「ハーイ・・・」 諦めたようにデルは、アンズの影の中に溶け込んで消えた。 ――銀行一階・受付ルーム 夜とはいえ、まだ所々に利用者が居る。 多分通勤帰りの社員、又は主婦などと考えられる。 ・・・・銀行に入るのって何年ぶりだろう・・ 当然6年間も頻繁に外に出てないアンズには、懐かしく感じた。 「あら、アズちゃん?」 ――背後からの声。 それはアンズが回転ドアから出る直前に掛けられた。 「(ヤバ)」 気まずそうに振り向くアンズ。 ・・・視線の先には高級毛皮のカーディガンを羽織り 高価な宝石を身に付けた女性が、こちらに向かって歩いてきた。 その隣には、黒いスーツを来た男の人も一人いる。 「お久しぶりね、、暫く会わないから心配だったわぁ。。 覚えてる?」 「はい覚えてます。。日比野さん」 嫌々ながらも返事するアンズ。 この少し老けた女性は日比野という人らしい。 ――この人にだけは会いたくなかった・・ アンズがそう思うのは、ちょっとした理由があるらしい。 ・・日比野に挨拶した後、男の人の方を見る。 「お隣は・・?」 「初めまして。私、池亀銀行新入行員の、 毬田 百夜と申します」 男の人は礼儀正しくも優しそうな様子で深く腰を折り、 アンズに名刺を差し出した。 「どうも・・」 現在デルは、アンズの影の中に『融合』してる状態・・ なので気配を悟られない限り、周りからはただの影としか見えない。 「(毬田 百夜(まりだももや)・・ ・・まさかこんなレベルが高い職場で働いてたトハネ)」 ・・・毬田という男の人を何か知ってるような感じで見てた。 「アズちゃんも預金に来たの?」 ・・馴れ馴れしく訊ねてくる日比野。 因みにアンズはこのあだ名で呼ばれるのを好ましく思って無い。 「そうです。手続きも終わり、今帰るところでして・・」 あえて預金に来たという事にした。 ・・本当の事は言える訳ない。 ――自宅の屋根で本を読んでたら、変な生き物を見つけて追いかけ・・ いつの間にか銀行の屋上に来てました・・なんて。 「そう、呼び止めて悪かったわねぇ。 どうせ帰ったってお家の中真っ暗でしょう? 折角お会いできたんだし、お茶でも飲んで行きなさい」 反応を待たずにアンズの手を引き、事務室へと向かう日比野。 「帰ります」と押し切ろうとするアンズだが、結局強引な態度に負けてしまった。 「あの!は・・はい、、」 「(ア〜ララ・・オバさんにおされ気味)」 そのやりとりをただ面白そうに見てるデル。 「それでは、私もお付き合い致します」 ・・・そう言い一番後ろから付いて行く毬田・・時々アンズの影を横目で見てる。 影に隠れてるデルはそれに気付いてるが、別に気にしてない。 「大変そうねぇ、、一人暮らしで・・ ご家族がいらっしゃらなくて貧しいでしょう。」 事務室へ向かう途中、いきなりアンズに囁く日比野。 あまり心遣いが無く、無礼ともとれる口調。 「日比野さん。もう少し言葉を慎むべきじゃありませんか?」 それを聞いた毬田がフォローに入る。 ・・過去を忘れたいアンズの気持ちを理解してる上で 言ってるのかは不明であるが、どちみちアンズは金持ちが嫌い。 苦手じゃなくて嫌いなのである・・ 大富豪やエリートとなると更に。 生活に苦労してる他人の心を理解しない人が多い・・ 一辺災難に遭って酷い思いを味わえばいいのに・・ そんな魔がさすような気持ちが浮かぶ時もたまにあった。 そんなアンズも6年前まで有名サーカス団の一員だったので、 生活が裕福であった。収入も多く、特に不便を知らずに育った。 でもあの事件・・そう、あの強盗のせいで人生全てが一転した・・ ――それから貧しさを知った。 ・・しかし昔から知り合いの日比野は、人に対する思いやりの微塵も無い。 「・・9時には帰らせて頂きますね!」 内心物凄く腹が立ってるが、堪え気味のアンズ。 いくら嫌いでも、日比野はとある企業の女社長・・本音を口走ってはいけない。 ・・・現在時計の短い針は「8」、長い針は「30」をさしてる。 「(ウヒー、重たい空気・・)」 銀行に来てしまった発端は そもそもデルのせい・・しかし呑気そうに影の中でその会話を聞いてた。 「さぁさぁ、こちらですよ。お入りなさい・・」 事務室のドアの前で、アンズと毬田を手招きする日比野。 人通りの少ない廊下にコツコツと響いてた3人の足音が止まる。 「では、、お邪魔します」 ドアの前まで来ると毬田は礼儀正しくお辞儀する。 アンズの方はまだ少しムッスリしてる・・ ――・・・そんな光景を見据えるような様子で、天井に一匹の揚羽蝶が留ってた。 当たり前ながら誰一人、その蝶の存在に気付いてない・・ 日比野が事務室に入るのを見届けると、蝶はその場から飛び去って行く・・ ヒラリ... 「・・・お帰り、サイコ」 銀行の屋上・・そこに2つの人影はあった―― サイコと呼ばれた揚羽蝶は、一人の女性の指先に留った。 そして何かを伝えるかのように、羽を微かに動かす。 「フフッ・・日比野って社長・・既においでになってるそうだ・・♪」 蝶の伝えた事を理解したかのように口元が笑む。 「・・・・今回のターゲットは社長・・また実行者はヒート?」 ヒートという女性の近くには、少し小柄の青年が座ってる。 「・・・当然。基本的に裁くのは私、頂くのがイヴ、探るのがサイコの役割。」 「今回限り交代しても構わないけど・・・?」 「・・・いや、あんたには任せられない。」 「・・こんな日常・・いつになれば終わるのか・・」 「・・・・・さぁ?・・我々は生涯を定められた存在、、 ・・・・命が燃え尽きるまでかね・・」 吹き抜ける風が通り越すと共に、寂れた空気が漂う。 「そろそろ、始めるよ・・・」 小さく囁くと同時、2人と蝶は闇に紛れる様にその場を去った。 ――銀行一階・事務室 日比野がガラリとドアを開けた瞬間、 一瞬大げさな歓声が室内に響いた。 「お帰りなさいませ!日比野社長!」 「よくぞお戻りになられました! どうぞお掛け下さい・・我々がご一緒でなくて大丈夫でしたか・・?」 お出迎えに出てきた若干のボディーガード達。 室内の奥には従業員の何人かが緻密な作業をしながら、こちらを見てる。 「平気よ。毬田さんがご一緒でしたもの・・・ね?」 「わ!ひ、日比野さ・・」 日比野は澄ました態度でソファーに腰を掛けると、 お構いなしに毬田の手を引きずり込み、自分の隣に座らせる。 因みに日比野は即婚者である・・ 旦那様が居なければ、人前であっても堂々とふしだらな行動する・・ 「(ヒャー・・社長だとはいえ、、 よくこんなオバちゃんのために集まったナ・・)」 日比野につくボディーガードの数に、影の中で仰天してるデル。 「初めまして、冬林 杏です・・」 ・・少し遅れてアンズは静かに毬田の隣に座る。 6年間引き篭ってたとはいえ、人前に出るのは慣れており緊張してない。 蛍光灯の光はアンズの背中から当たってるので、 現在デルが隠れてる影は彼女の足元・・更にテーブルの下になってる。 「毬田さん・・本当にこの方達全員、 日比野社長のボディーガード・・・・?」 アンズがそっと毬田の耳元で聞く。 「うーん・・そうらしいです。 ほら、最近偉い人達が殺される、変な事件が相次いでるでしょう・・?」 毬田も小声で言葉を返す。 「え・・そんな事件あったの・・?」 アンズは知らなかった様だ。 「あら、ずっとお家の中で過ごしてても テレビ観てなかったの?・・・アズちゃん」 日比野は地獄耳・・・小声でも2人の会話を聞き取ってた。 今度はアンズ、何も言わない・・ 悔しいけど事実だから・・・・ 今日は珍しく外に出れたのは魔獣・・デルと出会えたおかげ・・ その反面、久々に日比野にも会ってしまったが、 外に出れた達成感の方が遥かにいい・・今更ながらそう実感してた。 「・・・・で、例の事件に関してですが」 従業員の一人が先程の話題に戻す。 「どうせ魔獣の仕業だろう? あんな怪死事件・・それ以外考えられんな」 「ちょっと、、本気で魔獣が存在するなんて信じてんッスか?」 「君も世間知らずですね・・存在しますよ。 海外では既に、目撃情報、数々の証拠が発見されております」 ボディーガードの一人が魔獣の話を持ち込むと、 他の数名が口論し始める。 「魔獣・・・」 この話題にアンズは、真摯に耳を傾けた。 デルが隠れてる影を一瞥しながら・・ 毬田も同じ様子で聞いてる・・ 日比野の方は、一見話に関心が無さそうに雑誌を読んでる・・ ――そしてデルは・・・ 「(ヤッパリ人間は実に勝手な生物ダネ・・・ ・・・不可解な事件が起きるとすぐにボクらの仕業にスル)」 影の中・・迷惑そうにそんな人間達の会話に苛立ってる。 謎の連続怪死事件―― それは前年からポツポツと起きていたが、近年になって更に急増した模様・・ 手口は事件によって様々だが、とにかく金持ち・大富豪を中心に狙われてる。 未だに決定的な証拠が見つかってないらしい。 「魔獣以外に考えられる仮説は・・?」 「何処かの裏組織による高度な技術を使った殺人計画でしょう・・」 「いや、そう考えるのも無理があるかと・・私は魔獣と断定する。」 警察や政府でもないのに延々と続きそうな言い合い・・ デルは段々聞いていられなくなってた。 「(こいつラ・・好き放題言ってくれるジャン)」 魔獣としての名誉に障る事を言われると 流石のデルも嫌気がさすらしい・・ スッと影から離脱し、この人間達に何か思い知らせてやろうとした・・・・ ――『風封』・・ ズバッ... 一瞬、事務室内に響く何かが裂かれる音。 ・・その音にデルの動きもびくりと止まる。 「・・・?」 口論してた従業員やボディーガード達も、今の音に 会話を止めて室内をあちこち見てる。 ・・・・・アンズの足元・・丁度影となってる床のド真中に、 刃物で斬り付けたような亀裂が出来てた。 ――マリモだ。 影から離脱しようとしてたデルは、ビビりつつも直感した。 「(イッ・・・いきなり何スルのマリモ!)」 まだ全身の半分以上は影に溶け込んだままだったので、怪我はしなかったが・・ そしてデルの視線は・・・毬田に向けられてた。 この男が今、風の削力で床を裂いた張本人・・本名マリモ・・ 「(済まない。しかし掟は忘れないでくれ、デル。)」 影に向かって言葉を返す毬田・・・否、マリモ。 ・・デルとマリモ、2人は視線のみで会話を交わしてる。 ――「掟」・・・それは、「人間に対して安易な攻撃は慎む」という、 魔獣界の幾数もある掟の一つ。 「(忘れてナイヨ。でもボクの任務は 魔獣の名誉を毀損する物を処分していくことだって知ってるデショ?)」 マリモに阻止されたが、 ひとまず周囲に見られない内にアンズの影にまた完全に融合するデル。 「(いや、そうだが・・)」 「(この人間達は魔獣を悪い存在だと決め付けて 悪い噂を流してル!)」 「(しかしデル、君は行動に出るのがいつも早すぎる。 もう少し様子を見た方が話が良い傾向へいく可能性も・・)」 どうにかこの幼い魔獣を諭そうとするマリモ・・ マリモは人間でありつつも、魔獣の血も受け継いでる。 つまり両種族の立場をそれぞれ理解してる賢人・・ 「(とにかく話がある、こっちに来てくれないかい?)」 「(ン、、ご用でもあるノ?)」 周囲にばれない様にマリモが合図すると デルはアンズの影から、直接マリモの影へ忍び込んだ。 「重要な話題の途中申し訳有りません、 残業があるので数分程、席を立たせて頂きますよ」 日比野達にそう告げるとマリモは、事務室から出て行った。 「あ、ご苦労様・・」 その直後・・ 従業員、ボディーガード達はテーブルの下の床にできた亀裂を見つけた。 「この傷、、我々が事務室へ入ってきた時は無かった気が・・?」 「五月蝿いわね、誰かがテーブルを強くずらした時、 その摩擦で床が傷んだりしたんでしょう?」 依然として雑誌を読んだまま、日比野は適当な事を言う。 「それにしてはさっきの音・・急激的だったけど・・」 やはり他の人達は疑問を抱く。 そんな中アンズのみ、事務室から出て行ったマリモに不信感を持ってた。 「(私には見えた。音がする直前、 確かに毬田さんの手先から突風が・・・)」 ――やっぱ魔獣ってデル一匹だけじゃなかったんだ・・ 実際見て、ハッキリ実感した。 しかし彼女は、今デルが影から出て行き居なくなったのをまだ知らない。 ――銀行・受付ルーム 既に閉店時間を過ぎており、利用者はもう誰一人いない。 銀行内に設備されてる機械音だけが、虚空に響いてる。 「(誰も居ナイから出てきてもイイ?)」 「そうしてくれ。私もその方が話しやすい あ、ここじゃダメだ。そっちのテーブルで話そう」 マリモは防犯カメラから丁度死角となる場所へ移動した。 ・・そしてまた許可の合図を出すと、スッとデルが影から分離して出てきた。 「さて、どういう訳であのアンズという子と一緒にいたのか キッチリ話してもらおう。」 椅子に腰を掛け、マリモは早速訊き出す。 「えっとソレハ・・あの子が屋根で本読んでて、、 その本が魔獣の名誉を毀損する物だったから、 ボクは電気に融合して属性を変え、本に稲妻を落として処分したんダヨ・・・・」 やや躊躇ってるが、正直に事情を話すデル。 ――神話の本では、魔獣は「悪魔」というイメージで例えらてる。 その本を読んで魔獣を忌み嫌う人間が、これ以上増えないように デルは処分したのだ。 それが任務だから・・ 「稲妻を落とした?また随分ハデなやり方だな」 「ウ、ウン。そしたら・・・」 「あの子に正体がバレたんだろう?」 真剣そうにデルを叱責する。 当たり前だが、デルから見れば自分の半分以上も生きてるマリモは 相当なベテランに見える・・

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